倫理綱領

社会福祉士の倫理綱領

 日本社会福祉士会は、2020年6月30日付で新たな「社会福祉士の倫理綱領」を採択しました。

前 文

 われわれ社会福祉士は、すべての人が人間としての尊厳を有し、価値ある存在であり、平等であることを深く認識する。われわれは平和を擁護し、社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重および全人的存在の原理に則り、人々がつながりを実感できる社会への変革と社会的包摂の実現をめざす専門職であり、多様な人々や組織と協働することを言明する。
 われわれは、社会システムおよび自然的・地理的環境と人々の生活が相互に関連していることに着目する。社会変動が環境破壊および人間疎外をもたらしている状況にあって、この専門職が社会にと って不可欠であることを自覚するとともに、社会福祉士の職責についての一般社会及び市民の理解を深め、その啓発に努める。
 われわれは、われわれの加盟する国際ソーシャルワーカー連盟と国際ソーシャルワーク教育学校連盟が採択した、次の「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」(2014年7月)を、ソーシャルワーク実践の基盤となるものとして認識し、その実践の拠り所とする。
ソーシャルワーク専門職のグローバル定義
 ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。
 この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。
(IFSW;2014.7.)※注 1
 われわれは、ソーシャルワークの知識、技術の専門性と倫理性の維持、向上が専門職の責務であることを認識し、本綱領を制定してこれを遵守することを誓約する。

原理

Ⅰ (人間の尊厳)社会福祉士は、すべての人々を、出自、人種、民族、国籍、性別、性自認、性的指向、年齢、身体的精神的状況、宗教的文化的背景、社会的地位、経済状況などの違いにかかわらず、かけがえのない存在として尊重する。
Ⅱ (人権) 社会福祉士は、すべての人々を生まれながらにして侵すことのできない権利を有する存在であることを認識し、いかなる理由によってもその権利の抑圧・侵害・略奪を容認しない。
Ⅲ (社会正義)社会福祉士は、差別、貧困、抑圧、排除、無関心、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざす。
Ⅳ (集団的責任)社会福祉士は、集団の有する力と責任を認識し、人と環境の双方に働きかけて、互恵的な社会の実現に貢献する。
Ⅴ (多様性の尊重)社会福祉士は、個人、家族、集団、地域社会に存在する多様性を認識し、それらを尊重する社会の実現をめざす。
Ⅵ (全人的存在)社会福祉士は、すべての人々を生物的、心理的、社会的、文化的、スピリチュアルな側面からなる全人的な存在として認識する。

倫理基準

Ⅰ.クライエントに対する倫理責任
  1. (クライエントとの関係)社会福祉士は、クライエントとの専門的援助関係を最も大切にし、それを自己の利益のために利用しない。
  2. (クライエントの利益の最優先)社会福祉士は、業務の遂行に際して、クライエントの利益を最優先に考える。
  3. (受容)社会福祉士は、自らの先入観や偏見を排し、クライエントをあるがままに受容する。
  4. (説明責任)社会福祉士は、クライエントに必要な情報を適切な方法・わかりやすい表現を用いて提供する。
  5. (クライエントの自己決定の尊重)社会福祉士は、クライエントの自己決定を尊重し、クライエントがその権利を十分に理解し、活用できるようにする。また、社会福祉士は、クライエントの自己決定が本人の生命や健康を大きく損ねる場合や、他者の権利を脅かすような場合は、人と環境の相互作用の視点からクライエントとそこに関係する人々相互のウェルビーイングの調和を図ることに努める。
  6. (参加の促進)社会福祉士は、クライエントが自らの人生に影響を及ぼす決定や行動のすべての局面において、完全な関与と参加を促進する。
  7. (クライエントの意思決定への対応)社会福祉士は、意意思決定が困難なクライエントに対して、常に最善の方法を用いて利益と権利を擁護する。
  8. (プライバシーの尊重と秘密の保持)社会福祉士は、クライエントのプライバシーを尊重し秘密を保持する。
  9. (記録の開示)社会福祉士は、クライエントから記録の開示の要求があった場合、非開示とすべき正当な事由がない限り、クライエントに記録を開示する。
  10. (差別や虐待の禁止)社会福祉士は、クライエントに対していかなる差別・虐待もしない。
  11. (権利擁護)社会福祉士は、クライエントの権利を擁護し、その権利の行使を促進する。
  12. (情報処理技術の適切な使用)社会福祉士は、情報処理技術の利用がクライエントの権利を侵害する危険性があることを認識し、その適切な使用に努める。
Ⅱ.組織・職場に対する倫理責任
  1. (最良の実践を行う責務)社会福祉士は、自らが属する組織・職場の基本的な使命や理念を認識し、最良の業務を遂行する。
  2. (同僚などへの敬意)社会福祉士は、組織・職場内のどのような立場にあっても、同僚および他の専門職などに敬意を払う。
  3. (倫理綱領の理解の促進)社会福祉士は、組織・職場において本倫理綱領が認識されるよう働きかける。
  4. (倫理的実践の推進)社会福祉士は、組織・職場の方針、規則、業務命令がソーシャルワークの倫理的実践を妨げる場合は、適切・妥当な方法・手段によって提言し、改善を図る。
  5. (組織内アドボカシーの促進)社会福祉士は、組織・職場におけるあらゆる虐待または差別的・抑圧的な行為の予防および防止の促進を図る。
  6. (組織改革)社会福祉士は、人々のニーズや社会状況の変化に応じて組織・職場の機能を評価し必要な改革を図る。
Ⅲ.社会に対する倫理責任
  1. (ソーシャル・インクルージョン)社会福祉士は、あらゆる差別、貧困、抑圧、排除、無関心、暴力、環境破壊などに立ち向かい、包摂的な社会をめざす。
  2. (社会への働きかけ)社会福祉士は、人権と社会正義の増進において変革と開発が必要であるとみなすとき、人々の主体性を活かしながら、社会に働きかける。
  3. (グローバル社会への働きかけ)社会福祉士は、人権と社会正義に関する課題を解決するため、全世界のソーシャルワーカーと連帯し、グローバル社会に働きかける。
Ⅳ.専門職としての倫理責任
  1. (専門性の向上)社会福祉士は、最良の実践を行うために、必要な資格を所持し、専門性の向上に努める。
  2. (専門職の啓発)社会福祉士は、クライエント・他の専門職・市民に専門職としての実践を適切な手段をもって伝え、社会的信用を高めるよう努める。
  3. (信用失墜行為の禁止)社会福祉士は、自分の権限の乱用や品位を傷つける行いなど、専門職全体の信用失墜となるような行為をしてはならない。
  4. (社会的信用の保持)社会福祉士は、他の社会福祉士が専門職業の社会的信用を損なうような場合、本人にその事実を知らせ、必要な対応を促す。
  5. (専門職の擁護)社会福祉士は、不当な批判を受けることがあれば、専門職として連帯し、その立場を擁護する。
  6. (教育・訓練・管理における責務)社会福祉士は、教育・訓練・管理を行う場合、それらを受ける人の人権を尊重し、専門性の向上に寄与する。
  7. (調査・研究)社会福祉士は、すべての調査・研究過程で、クライエントを含む研究対象の権利を尊重し、研究対象との関係に十分に注意を払い、倫理性を確保する。
  8. (自己管理)社会福祉士は、何らかの個人的・社会的な困難に直面し、それが専門的判断や業務遂行に影響する場合、クライエントや他の人々を守るために必要な対応を行い、自己管理に努める。
  • 注 1. 本綱領には「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」の本文のみを掲載してある。なお、アジア太平洋(2016年)および日本(2017年)における展開が制定されている。
  • 注 2. 本綱領にいう「社会福祉士」とは、本倫理綱領を遵守することを誓約し、ソーシャルワークに携わる者をさす。
  • 注 3. 本綱領にいう「クライエント」とは、「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」に照らし、ソーシャルワークに支援を求める人々、ソーシャルワークが必要な人々および変革や開発、結束の必要な社会に含まれるすべての人々をさす。
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